『さくさく読めます』
章立てが細かくて、読みやすくなっています。
(章立てが一番効果的で読みやすかったのは殊能将之の『美濃牛』です。お勧めですよ)
展開の仕方もよく、ページをめくるのももどかしくなるほどです。
やっぱり文体におかしなところが少ないとすんなり読めるものですね。
装丁も上品で好感が持てます。
ただ、残念な点がいくつかあって、評価は星3つになりました。
どうせなら、もっといろいろ書き込んで人物像をぐっと掘り下げてくれたなら、
作品としての厚みもでたのになあ、と悔やまれることしきり。
でもそうするとこの作品の持ってるいいテンポが維持できなくなるかしら?
ラストの謎解きは意外性も蓋然性も乏しく、今ひとつしっくりしません。
なので、さくさく読めるのに読後感はもやもやしちゃうのもいけませんな。
さて、以下はミステリとして読むときの苦言です。
ポーの『モルグ街の殺人』のネタばれありです。
未読の人は要注意。(オイラはいつか読もうと思っていただけにがっかりです)
さらに、作中ではタイトルこそ明かしておりませんが、
ある著名な短編作品のトリックもばばんと紹介しております。
ミステリのネタばらしってやっちゃいけないことだと思うんですよ。
もうすこし気を使って欲しかったですな。
「謎に対して曖昧さを残すことで、読者に推測の余地を」
とする意図で書かれたのかもしれませんが、ラストがこれではただの説明不足です。
登場人物自体の存在に謎を投げかけるというのは、別に珍しいものでもありません。
ただ、ミステリ読みとしては、材料不足で謎を残したまま終わるというのは許せないのですが、みなさまはいかが?
結論:ミステリというよりはサスペンスneeds somethingでしたね、これは。
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