『登場人物に話しかけたくなる自分に気づく』
収められた四編の物語はどれも他者との交流や理解の難しさを描いている。この作家らしい作品だ。
だれでも自分らしく生きようとしているが、社会の中では他者と関わることは避けられない。他者と自分との関係をうまく構築するには、まず自分をある程度、他者に開放しなくてはならない。お互いが少しずつ開放する事でコミュニケーションは成り立つ。しかしそれがうまくできない人にとっては、一方的な交流は命令や圧力としか感じないだろう。それは遠からずストレスとなって、事態を余計悪化させてしまう。
それは何も作品の登場人物だけではなく、現実の自分たちでも同じなんです。日常的な行き違いを無視したり、他のことに振り替えながら何とかやっているんです。まともに受け止めているあなたの方がむしろ強いのかもしれません・・・作者や登場人物に話しかけたくなる自分に気づく。
彼の作品の人間関係では本当の悪人が出てこず、出来すぎで理想的なのかもしれないとも思う。しかし、いくつもの自分を使い分けて生活している人達も、根元の所では悪人ではないはずだ。少なくともこの作家はそう信じているだろう。
集英社 エ1,470円