ベスト・セラー『永遠の仔』(天童荒太著、日本推理作家協会賞受賞)のテレビ化を通じて親交を深めた作曲家と作家の対話篇。作家が主題とした虐待される子どもたちの話に端を発する「I 少年」の章と、作曲家がふと訪れたアフリカという視点から、人類学的な知見を交えて現代日本を相対化してみせる「II アフリカ」の2章からなっている。話はおおむね1952年生まれの作曲家がリード役となり、8歳年下の作家は、敬意を持って聞き役に回っているという印象だ。
おもしろいのは、「I」で語られる2人の少年時代のエピソード。鑑賞体験を共有した映画の話などをきっかけに、それぞれが大事にしている少年時代独特の妄想や非社会的な夢想の体験ばなしが、おもしろおかしく、そして共感に満ちて語られている。
この共感は、話し合ったその場の2人だけのものではなく、子ども一般の同様の傾向にも向けられているのだが、その話しぶりの素直さと紛れのなさが、この体談に、時代状況への批判の書という意外な性格を与えてもいる。
坂本によれば、アフリカでは太陽や星の動きが驚くほど早く、都会では感じることのない地球の自転のすごさを感じるそうだ。この手の感想がありがちな自然礼賛調に堕さないのは、「子どものときから国が嫌い。日本にはいなくたっていい」という一言で伝わるある種の覚悟の深さと、遠くアフリカからも日本を相対化してみせる知的な志向を、話し手自身が、きっちりと持っているからなのである。(今野哲男)
文藝春秋 エ円