『冒険に立ちはだかる壁』
著者のシリーズ短編集「季節風春」同様、この「夏」も珠玉だ。
この、十二篇の短編集は、夏が舞台になっていて、心にダイレクトに訴えかける。
表題作「僕たちのミシシッピリバー」は、小学生達が、自転車で、海を見に行くという、「冒険」ものだ。
海までの道のりは、片道50キロを超え、途中で、雨などの壁に見舞われる。
小学生の体力で、自転車で片道50キロ以上、その日のうちに帰路につくので、往復で100キロ以上の走行は無理だと思った。
しかし、その様な、現実的な危惧は、この作品の前には、あまりに無粋過ぎた。
ラストは、感動的ですらある。
しかし、本書は、爽快な物語ばかりではない。
むしろ、切なくて、涙をさそう様な、哀愁を伴う作品が多い。
このシリーズは、すべての短編が、外れなく秀逸。
著者の、感性の温かさが光る。
文藝春秋 エ1,500円