『設定は面白いのにラストが・・』
日英の文化が混淆したエキゾチックな旧植民地V.ファーの一角にあって、
運河を遡る船でしか近付けない太古からの聖地アナザー・ヒル。
そこでは年に一度、「ヒガン」なる儀式が執り行われ、
人々はむしろ陽気にすら思える態度で死者との交歓に臨む……
という設定自体はなかなか魅力的だし、一種の巨大な密室と化したアナザー・ヒルで
連続殺人事件が起こるという展開も、ややエンタメ色が強過ぎるとはいえ
それなりに楽しめるのだが、他の多くのレビュアー同様、
結末のあまりの安易さにコケてしまい、この評価になった。。
以前、『禁じられた楽園』についてもほとんど同じ内容のレビューを書いた覚えがあるが、
この作者の場合、この手のファンタジーとミステリとホラーが入り混じったような作品になると、
最初のうちこそ綿密に構築されたかに見える世界観に惹き込まれるのだが、
途中、やや安易なまでに「超自然」に頼った展開が連発されるためか、
もはや生半可な出来事では驚かなくなってしまったところに、
それまで周到に張り巡らせてきたはずの伏線などは急にどうでもよくなったかのように、
ラストでいきなり強引過ぎる解決が導入されてなし崩し的に終わる、というのが毎度のことのようで、
そうなると作品世界全体が妙に薄っぺらな書割のように思われてきて仕方がなく、
ここまで引っ張っておいてそれはないだろう、、と途方に暮れるような読後感しか残らないことも多い。
むしろ『夜のピクニック』のように、「超自然」的要素は極力排除して
十代の少年少女の心の揺らぎをあくまでつつましく丁寧に描いたファンタジーのほうに、
この作者の本領もあるようだ、と言ったら当たり前過ぎるだろうか。
朝日新聞社 エ1,890円