『恩田陸、初期・原点のミステリを読みたい方に』
もはや「大家」として新作を発表するようになった恩田陸だが、初期のこのミステリーは親子姉妹の微妙な心理を、夫婦やその他の大人の感情と絡ませて実に面白い仕上がりになっている。心理的なミステリーとして、臨場感のある出来なのだ。架空世界というよりも、実際にあっても不思議ではない、ちょっと誇張された演劇的な人物像の仕立て具合が、彼女らしい設定で、後の作風にも受け継がれていく「原点」として際立っている。
落ちを何度も引きずるラストシーンは、交響曲の終わり方にも似て、変奏を繰り返し演奏するミステリーのエンディングのリフレインである。その音楽的な言葉の響きも美しい、イメージの波に揺られているラストを楽しんで欲しい。
祥伝社 エ580円