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象と耳鳴り―推理小説 (祥伝社文庫)



『論理と幻想によって織りなされる、珠玉のパズラー集』
◆「新・D坂の殺人事件」

  渋谷の雑踏の中に忽然と出現した、全身に細かい骨折を負った男の死体。
  男の周りには、無数の通行人がいたにもかかわらず、目撃者がいない……。


  現代人の利己的な欲望と無関心により生じた不可能状況を、
  都市の風俗にからめて鮮烈に描いた寓話的な作品。



◆「給水塔」

  その周辺で事故や失踪があったことから「人喰い給水塔」と名づけられた建物。
  時枝満から事件の詳細を聞いた関根多佳雄は、その謎を推理するのだが……。


  事件間のミッシング・リンクを見事に繋げ、鮮やかな謎の解明をする多佳雄。
  しかしそれは、多佳雄自らが捏造した解答から逆算した恣意的なものに過ぎません。

  ラストの擬人化された給水塔のイメージは、多佳雄の推理
  によって生命を与えられた謎そのもののように思われます。



◆「待合室の冒険」

  人身事故のため、駅の待合室で
  復旧を待つ多佳雄と息子の春。

  そこに居た男のケータイの会話、


  「電車が動きださないことにはこっちだってどうしようもない。
   七時三分だ。七時三分に迎えに来てくれ。間違えるな。」


  に隠された意味とは?


  ハリイ・ケメルマン『九マイルは遠すぎる』を
  嚆矢とする《推理連鎖》ものに属する作品。

  はっきり言って、切れ味と完成度は本家以上。

  本家の文庫本が小道具として作中で効果的な
  用いられ方をしているのも、実に心憎いです。



  


祥伝社 590円

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