『昭和はそういう時代だった』
当然ながら、本編よりは時代が新しくなるけれど、
昭和という時代はそんな時代だった。
電話を近所の家から借り、テレビも借家の大家さん
や街頭テレビで見た。
なにより、それを“貸す側”が当たり前だと思って
いた。
『昔の人は現代人よりも劣っている』というのが我
々の認識だと思う。
平成の、インターネットによるグローバル化した視
野を持った我々の方が、明治維新の坂本龍馬より、
大阪城を作った豊臣秀吉よりは確実に物事や時代の
流れがが判っていると思っている。
ましてや縄文時代に行ったら神様扱いになるに違い
ない。なんてね。
ところが、時代や人の価値観、学習能力は、もしか
したら現代は歴史上、かなり低い順位になりそうだ。
主人公の、(どうせ俺は未来人で、すぐにこの時代
から立ち去るし、君らは過去人で、これから日本が
どうなるか知らず、何も見えていない未開人だ)と
いう考えを背景にしたずーずーしさや優越感は、随
所でその行動や発言に現れ読者は冷や冷や(イライ
ラ)する。
ところが、現地(当時)の人達は、輝ける(当時の
人から見ればそう見えるはずの)未来に移住するよ
りも、その場に留まって生きよう、あるいは死のう
と決断する。
俺らだったどうよ?!
近いうちに君らのほとんどが死んじまうけど、未来
に行かねぇ?って言われたら、『じゃぁ、しょうが
ねぇから行こうか』なんて思うんじゃないだろか。
どちらが正しくてどちらが正しくないとか、保守的
とか革新的とかじゃなくて、どちらがその時代を、あ
るいは家族や友達を愛してるのかという事を考えると
…。
私は過去の人たちの方が、我々よりもずっと生きてる
意義や実感を感じながら生きたんだと思うよ。
生き方や幸福感、恋愛感や人生観を考えさせる…やっ
ぱり“ミステリ”からははみ出る作品だと思う。
“無冠の帝王”ってあるじゃん?
恋愛小説としてもミステリとしても時代小説としても
無冠かもしれないけれど、エンターテイメントとして
は星四つ以上つけられると思うよね。
(むしろ星つけないほうが価値あるような気がするん
だけど)
文藝春秋 エ940円