『第1巻。被害者の慟哭』
本書は、著者の最高傑作とも称される長大なミステリー小説の第1巻(第1部完結)です。
物語の核となる、いびつな犯人の起こした凶悪犯罪を、
不幸にも巻き込まれた被害者遺族の観点から概観し、
第2・3部の基礎となる情報が与えられる1冊ともいえます。
「被害者」としてスポットライトが当てられるのは、
孫娘・古川鞠子の身を案じる実直な豆腐屋店主・有馬義男、
家族を失い、父の友人宅に寄宿する、傷ついた高校生・塚田真一の二人。
二人は現代型とも言える、劇場型の凶悪犯罪に巻き込まれ、
忌まわしい犯人や、一見善意でも、結局他人に過ぎない周囲の人々に、
神経をすり減らされ、翻弄されていく…。
例えば、真一に接するライター・前畑滋子にせよ、
所詮、己の自己実現のために真一を利用しようとする側面は否めないでしょう。
被害者の立場には誰も代わってやれないという、残酷な真実が浮き彫りにされています。
とりわけ、剛毅な有馬義男の過酷な体験は、読んでいて胸が詰まります。
終盤、諦念と我慢を重ねてきた義男の慟哭は、悲しみに満ちていて、読むのが辛かったです。
以前、単行本の上巻で挫折した記憶があるのですが、
「楽園」が本書の続編と知り、また、安価で5巻「大人買い」したのを期に、再読中です。
第2部は、いよいよおぞましい加害者へスポットが…。
どう話が転がるのか、楽しみでもあり怖くもあります。
新潮社 エ820円