『耽美の世界』
耽美の世界だ。
騒々しく、せわしなく、色気の無い現代を思い出させるものはすべて、注意深く取っ払ってある。作者の狙いは見事に当たり、初めのうち、いつの時代の話だろうと首をかしげた。月光、夜の菜園、古い池、朝もやの農道等々、情景が鮮やかに脳裏に浮かんでくる。
必然的に、ストーリーにリアリティは薄い。主人公二人の間のわだかまりの原因になった過去の事件など、こじつけめいていて、それほど苦悩するようなものとは思えない。一番苦しんだのは、真志喜の父親だろうが、二人に比べて影は薄い。
よくも悪くも、少女漫画の世界。好き嫌いは分かれるだろう。わたしは面白かった。
角川書店 エ540円