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私が語りはじめた彼は (新潮文庫)



『男と女の間には深くて暗い川がある。』
ほぼ日刊イトイ新聞の中で名作【かもめ食堂】の監督荻上直子さんが奨めて居たので
興味を持ち手に取った一冊。心底驚いた!!。こんな小説の書き方もあるんだなぁ、と。

古代中国史の研究者村川教授=【彼】。欲望の赴くままに生きた【彼】の事が
6つの短編(ミステリあり、心理小説あり)の中で語られて行く。
過去から現在に至るまで【彼】と関わりのあった登場人物の間の愛憎が複雑に絡みあう。

が、結局の所。最後まで【彼】の輪郭はハッキリと語られ尽くす事はないまま。
読んでいて口に広がるのも苦味だったり、切なさを含んだ酸味だったりで、
決して口当たりが優しい訳ではない。にも関わらず実に病み付きになる文章だ。

読了直後感じたのは。敢えて読者が各自【彼】をイメージしやすいような
ヒントや隙を残したまま書き終えているのではないか、という事。
だとすれば、恐るべし三浦しをん!!。そう感じる程に一つ、一つの話が
素晴らしい完成度を持っている。

個人的には突然父親を喪失し混乱していた息子が、【彼】の新しい家庭を訪問した後、
父親と訣別し、再生していく様子が描かれている【予言】が強く印象に残った。
人が愛について思う時の気持ちの奥底を見詰め、的確な文章で書き記す事の出来る
三浦さんの眼力。実に凄まじい小説です。
新潮社 460円

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