『“被害者”と“加害者”のふたりにいつまでも残る「傷」』
「週刊新潮」に’07年7月から12月まで連載された、純文学畑の作家吉田修一が『悪人』に次いで書いた“犯罪文学”。
はじめは我が子を手にかけた、現実に起こった事件をモデルにした、ある女の幼児殺人事件だったが、この小説のメインテーマはそうではない。この事件はきっかけにすぎず、実際は隣家に住む若夫婦の過去を取材記者が探り当てるところから始まる。その15年前の“事件”が歳月をかけてもいつまでも「傷」として残る“被害者”と“加害者”のふたり。
物語はこのふたりの過去とそれを調べる取材記者のエピソードなどを交えて、意外と静謐に進んでゆく。
次第に明らかになるふたりの関係と真実、そして結末はとても哀しい。「幸せになってはいけない。一緒に不幸になるって約束した」、「幸せになりそうだった」だから・・・。
なるほど“考えさせられる”重苦しいテーマの作品ではあるが、『悪人』でドラマチックに吉田修一が描いた“魂の叫び”みたいなものは感じられず、読後感はスッキリとしなかったし、あまり心が揺さぶられなかった。
新潮社 エ1,470円