『シートン動物記が下敷き、良質ミステリ短編集』
このミス2009で絶賛された「ジョーカー・ゲーム」、面白くはありましたが、
それほどこの作者の個性を感じることができませんでした。一方、シートン
動物記とその作者であるシートンを題材にした本作は、外国文学を思わせる
文体や雰囲気が独特で、7つの短編ミステリに思わず引き込まれてしまいました。
作者は本来、本作のようなパスティーシュを書いてきたとのことで納得。
ほかに同様の過去作品があれば、ぜひ文庫で出して欲しいです。
すべての短編は、シートン作品のかつての熱心な読者であるロサンゼルスの新聞記者が
老いたシートンを訪ねて、昔話を聞くスタイルで語られます。すべて、動物の生態を
熟知したシートンが、その知識を元にミステリを解明する話となっています。
カランポーの悪魔
有名な狼王ロボと人間の闘争が絡んだ殺人事件をシートンが解決する。
銀の星
金持ち婦人のダイヤモンドが二度盗まれる話。シートンは、一度目はカラスの仕業と
見破る。さらに、二度目の事件が起きた後、すべての謎を解き明かす。
森の旗
賢いリスを飼う少年が火事で父親をなくす。シートンが、行方がわからなくなった少年と、
父の死にまつわる謎を解明する。
ウシ小屋密室とナマズのジョー
仲の悪い2家族の争いに翻弄される少年同士の友情の話、変わり者の老人が
盗まれた金時計と卵を自分のものだと主張する話。
ロイヤル・アナロスタン失踪事件
金持ち婦人の依頼で失踪した血統書つきの猫を捜索した顛末。
三人の秘書官
Tルーズベルト大統領の三人の秘書官のうち、ひとり混じっていたスパイを
見つけ出す話。
熊王ジャック
「殺人熊」の熊狩りに動向したシートンが、殺人未遂を見破る話。
光文社 エ600円