『漱石もこうした推理小説を書いていたかも』
周知のごとく漱石は推理小説という形式に強い関心があり、その関心が『こころ』、『彼岸杉まで』などに色濃く反映されている。この作者の文体が漱石のそれを上手に取り入れているため、これが漱石本人の作といってもそう違和感を抱くことはないだろう。『はじまりの島』では『種の起源』出版当時の社会の雰囲気が実によく描出されていたが、本書でも殺人事件と当時の社会風潮の関係が立体的に描き出されており、読み終わると当時の社会に関する造詣が深くなることが本書を読む際の副産物となる。
朝日新聞社 エ円