『ギリシャの民主主義』
オリンピックの放映タイトルのアクロポリスの丘に聳え立つパルテノン。廃墟と化した今でもあの美しさ、完成時は、限りなく壮麗で光り輝いていた。事実、欧米の王宮や官公庁、銀行等権威のある歴史的な建物の多くは、これを模したかその強い影響を受けたものが多く、未だに、これを凌駕する建築物は無い。
この本は、情報網を駆使したデルポイの巫女・アリストニケの神託、英雄で裏切り者・不世出の軍略家テミストクレスの数奇な人生と、このパルテノンの建設の3部作になっているが、最後の話は、ギリシャの文化文明史的な側面が良く出ていて小説以外の面白さもあり楽しい。
幼馴染である、ギリシャ民主制の黄金期を築いたペリクレスが依頼し、歴史上屈指の彫刻家フェイディアスが神殿建設の監督を引き受けてパルテノンの完成を見るが、フェイディアスの宙に浮く神殿構想と審美眼の卓越性を描いて飽きさせない。大英博物館のパルテノンのフリーズの断片にショックを受け、プロピュライアを上り詰めて仰ぎ見て感激したあのパルテノンが、往時の姿で蘇るような気がした。
このパルテノン編は、二人の芸術や政治論、本来のプラトニックラブ(フェイディアスと美少年との愛で描かれている)、寡頭派との政争、哲学者との対話、ペリクレスのバルバロイ妻への愛等など絡むサブテーマが豊か。ギリシャの民主主義と民会、オストラシズム(陶片追放)の描写が、シェイクスピアやプラトンの一篇を髣髴とさせたり、直接民主主義が如何に脆弱で危険かを示すなど興味深い。
実業之日本社 エ円