『世界が揺らぐ』
この著者の作品はいつも、あることが当然だと思っている人間が視点人物で、そこに別の価値観が持ち込まれて揺らぐところが見所だと思います。
今回も、シャーロック・ホームズのおなじみの世界で、大英帝国至上主義のところへ、植民地批判が出てくるところが、別の世界に連れて行かれるように酔いしれました。「裏切り者は、あなたよ」という台詞がクライマックスでした。
しかし、話としては、いつものワトソン博士の代わりにとんちんかんな推理を連発するナツメ氏や、イギリスの風土の中にちりばめられた異国情緒としての日本的なものが面白く、そして最後にはちゃんと本格推理的な解決がされます。
それでも、しばらくはワトソン博士の経験した夢なのかなんなのかわからない部分が残り、しばらく酔っていられます。世界が揺らぐのは楽しいです。
小学館 エ1,470円