『未来への船』
学校で書かされる「進路希望調査」には、
いつも不安にさせられていたことを思い出しました。
たくさんチャレンジしてみたいことはあるのに、
あの紙にいざ書こうとすると、何も思い浮かばなくなってしまった覚えがあります。
だから、さくらが進路希望欄に「不明」と書いた気持ちに深く共感しました。
未来への漠然とした不安が、この物語では繊細に描かれています。
心ならずも親友を裏切ってしまったことで落ち込み悩むさくら
穏やかで優しくて、でも心に傷を持ち全人類が乗れる宇宙船を設計し続ける智さん
うっとうしいけど憎めない、尾行というちょっぴり不気味な趣味を持つ勝田くん
万引きや薬の誘惑に負けてしまうさくらの親友梨利
みんなそれぞれ現実に悩んでて、未来とうまく向き合えない
そんな登場人物たちの姿は自分と重なるところがあるように思います。
「この世にはあいまいにおかしい人などいくらでもいるのかもしれない」
という言葉が印象的でした。
最初、宇宙船に乗せてね、と智さんに頼んでいたさくらの心境の変化も
心に残る場面でした。
銀のバレッタに手紙、古文書など小物の使い方がすごくうまいです。
夜の水たまりに浮かぶ「つきのふね」がとっても素敵です。
角川書店 エ460円