『生き物を飼うすべての人に』
産経児童出版文化賞・日本児童文学者協会賞・路傍の石文学賞受賞作。なんとすごい。でもまあそれはある意味どうでもいいのです。本当はこの本を紹介するのに賞の名前など列挙する必要などなく・・・
イグアナを飼うことになった一家の物語。イグアナは、飼育に大変な労力を要する生き物。それをなかば騙され、押し付けられた小竹家の奮闘が、11歳の樹里の視点で描かれています。この珍しい生き物の生態と、それを迎え入れた一家の生活ぶりがたっぷり読める一冊です。生き生きした文章と、セリフにぐいぐい引き込まれます。はらだたけひでさんのイラストもとてもかわいい。
生き物が家族に加わると、その生活は多かれ少なかれ変化します。とりわけイグアナのような特殊な生き物であれば、飼い主たる人間の方も相当変わらないではいられません。大げさに言うなら家族崩壊にもつながりかねない事件の連続。そんな中で樹里は、パパとママはどんなふうにイグアナと関わっていくのか・・・樹里はこの生き物とどうつきあう?弱腰のパパは?トカゲ大嫌いのママはどうなる? イグアナの生態とともに、人間の生態も覗くことができる・・・これはそうした物語なのです。
本書は児童文学ですが大人でも十分楽しめます。イグアナに興味があってもなくても、さらに言うなら、生き物を飼うすべての人に読んでいただきたいと願います。悲しい末路をたどるペットが絶えない世の中を少しだけ変えられるかもしれない、そんな力を秘めたすぐれた作品です。
中央公論新社 エ円