『小説好きの友達に薦めたい本』
小説好きの友達に薦めたいと思う本であった。
六つの短編集から成り手軽に読めるのに、密度が濃くて、非常に満足感が得られる。
なによりも読後感がとても良い。心がじわっと温まり、確かな力を与えてくれる。
私のお薦めは、「守護神」という短篇。登場人物二人の生きる姿勢はもちろんのことであるが、古典文学に対する会話内容が面白く、よりいっそう物語に惹きこまれる。
ちなみに表題の「風に舞いあがるビニールシート」は、本書の最終短篇のタイトル。表題に選ばれ、巻末に置かれている故、本書一番の読み所であろう。国際連合難民高等弁務官事務所が物語の舞台になっており、作者の拘りは感じるのだが、取材力不足なのか、社会派描写の不慣れか、その拘りが伝えきれておらず、深みが出ていないのが惜しいように感じる。ちなみに本短篇は、NHKでドラマ化され、主人公を吹石一恵が演じているが、本書から受ける印象とは全く異なる。個人的にはドラマの方がよく出来ていると感じた。
文藝春秋 エ1,470円