『連載のあるべき姿。』
「腐敗」
朽ちて悪臭を放ち、カタチを失くし崩れていく。
それは、負のイメージに他ならない。
しかし彼女の手にかかれば、それは甘美で豊潤で、
手のひらにのせて愛でたくなるモノであるかのように映る。
この作品に限らず、小川洋子氏の描写にさるきちは酔いしれる。
小さな物体やさりげない風景の
息づかいまでもが聞こえてくるよう。
本書はサイコホラーの短編集。
冷蔵庫の中で死んでしまった男の子、
心臓を入れる鞄をつくる職人、
拷問博物館を営む老人、
ファーストフード店のゴミ箱に捨てられた
ケチャップまみれのハムスターの死骸、
大きな屋敷の中庭で息をひきとるベンガル虎。
トラック事故で道路にぶちまけられた真っ赤なトマト、
廃墟となった郵便局にいっぱいの甘酸っぱいキウイ。
不気味なのに美しく、官能的とさえいえそうな、
そんな物語ばかり。
骸骨の人形が備えられた時計台がある広場。
その広場を囲む小さな町の
あちこちで生じている「死」と「弔い」。
言葉や表現は慎み深く上品で、どれも素晴らしいです。
さらにね、
すべての短編が絡み合い、伏線が張られているのです。
短編でこれほど満足感を与えてくれるものって、
少ないんじゃないかしら。
一編を読み終えた後、前の作品を読み直したくなるのね。
週刊春秋の連載をまとめたものなのですが
“連載”のあるべき姿を見たような気がします。
実業之日本社 エ円