『凍った香りのとかしかた』
人並み以上の才能を授かり、それを生かしきることよりも自ら死を選んだ弘之。
恋人の涼子は彼の死の意味を求め、遠くプラハまで旅立つ。
手がかりは数学。スケート。フロッピーに残されたいくつかの文章。
わざとしておく一つの間違い。そして「記憶の泉」。
並外れた才能の持ち主が、「凡人」に収斂していく過程に耐えられずに自殺した、
とも読めるし、
「わざとしておく一つの間違い」が行き過ぎてしまったとも読める。
俗世を広く覆うのは黒でもなく白でもなく、グレー部分であることになじめなかった、
とも読める。正解を求められ続けた少年は、そのように世界を捉えられなかった、とも。
以前の自分なら、おそらく息子の才能に狂喜する母親を責める心理になっていただろうが、
そのような魂が行き着いた結末は、誰かの責任というより、何か大きな力に動かされたと
考えた方が自然だと、今は思う。
さあ、小川洋子ワールドへどうぞ!
幻冬舎 エ円