『ひとつ上の大人の恋愛小説』
夫との生活に疲れ、逃れるように山あいの別荘に来た「わたし」。
そこで出会ったのは、チェンバロ作りをしている新田氏とその弟子の
薫さんだった。「わたし」はしだいに新田氏に振り向いてほしいと
思うようになるのだが・・・。
冷静さを装った何気ないしぐさや言葉、目線の描写などが、逆に、心に
燃えている激しい情熱を感じさせる。だが、「わたし」がどんなに新田氏の
心をつかもうと努力しても、新田氏と薫さんとの間には入れない。
「振り向いてほしいのに振り向いてくれない・・・。」
嫉妬に苦しむ「わたし」の様子が、生々しく描かれている。人の心の中に
隠されている感情描写が絶妙だった。ひとつ上の大人の恋愛を味わうことが
できる作品だと思う。
文藝春秋 エ550円