『心のもやもやが形になってみえてくる・・・』
これは、小説ではなくお二人の対話をまとめられたものです。
村上春樹が作品を作るうえで、悩んでいること、自分のテーマを明確に打ち明け、河合隼雄先生により癒されているようでもありました。村上春樹は小説を書く作業は自分の中に開いた空白を埋めるような作業だと語っていて、そのもやもやが、河合隼雄先生との対話によって、形がみえてくるのです。(不思議なことに、私もこれを読むことによって、もやもやが、みえてきたようでした。)
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ここで、どうして、河合先生は「先生」で、村上春樹は「村上春樹」なの?と、思われる方もいらっしゃるかもしれないので(いるかな?)・・・ちょこっと解説です。
村上春樹は、私がすごく身近に思えてしまう人なんですね。
彼の作品は、私の心のメタファーですから(笑)。
そんなすごい作品が作れるすごい人だと思っています。そして、自分の悩みをはっきりと人に打ち明けることができるという点で、すごい人なんだとなおさら思ってしまうのです。
そんな思いがあり、親しみをこめての「村上春樹」(あくまでも呼び捨て)なんです。
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村上春樹の作品は、これまで「ノルウェーの森」「海辺のカフカ」、それからデビュー作「風の歌を聴け」の3作品を読みました。まだまだ彼の世界について、わかったわけではありません。私がわかったつもりになっているのは、ごく一部です。これらの作品を読んで、共通のテーマを感じました。
自分のもっとも関心のあるテーマでもあります。
それは、「喪失感情」ということ。現実との壁。現実感の喪失。何かを失った時の感じが続いているということ。
対話の中で、それについて村上が「デタッチメント(関わりのなさ)」と、言っていることで少し納得できました。彼は、それまでのデタッチメントから何にコミットしていくかについて悩んだこと、そして、これからのコミットメントについてどうしていけばいいのかと考えていること。
河合先生は、それについて分析家の「静かで深いコミットメント」について語っています。それから、結婚についての対話のなかで、「井戸掘り」についても。
深いコミットメントは結婚においても重要であり、もちろん、すべてのコミットメントにいえることではないかと思いました。
人を理解しようと思ったら、井戸掘りするしかしょうがないですね、と。
自分は理解されないという思いをする人が増えている。その、一方で、人との深いつながりを求めている。自分の理解を深く掘り下げることにより、相手の理解がより深まるのではないかと。
深い人間関係について、ゆっくり考えさせられる一冊です。
新潮社 エ460円