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羊をめぐる冒険〈下〉 (講談社文庫)



『失われた物語たち』
『羊をめぐる冒険』というタイトル通り、
「羊」を主人公が探しに行きます。
でも、追いかけて確実に主人公が羊へと近づいているのに、
同じところをぐるぐる回っているような、奇妙でおもしろい気分を味わいました。
読んでいて、私なりに考えたことを書きます。

主人公の「僕」は世間に流されない印象を受けます。
この物語は第一章「1970/11/25」(上巻)から始まります。
三島由紀夫の死んだ日です。
けれども彼はこのことをたった一行ですませ、我々には関係ないこと、と言い切っています。
『羊をめぐる冒険』はほかの誰でもない、「僕」という個人の物語なのかな、と思います。
(同様に、十二滝町の歴史に登場する、アイヌ青年も私にとって印象的でした。
十二滝町の歴史の記述は、アイヌ青年の個人の物語でもあるのです。)

「僕」の物語に突然現れた「羊」は、僕という一人の確固とした個人の歴史に対し、
隠蔽された歴史、あるいは失われた歴史を表しているような気がします。
「羊」の大きな力により世界が左右されていることは、ほとんどの人が知り得ません。
そしてまた、この隠された歴史は、教科書に名を残すことのなかった個々の歴史にも
重なるところがあるかもしれません。
講談社 500円

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羊をめぐる冒険〈下〉 (講談社文庫)

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