『世界との折り合いのつけかたについて。』
ずっと気になっていた本でしたが、やっと手にとって読むことができました。全編を通して、そもそもの自分(京都で大学生になっていた自分)と、その自分に当然のように価値や評価・役割を与えようと取り巻いている社会との落差に困惑する学生の姿を見ました。原作があっての本書ですが、原作と比較してどうのという読み方はナンセンスのように思います。「桜の森の満開の下」は文体が美しく、「女」の生き方に涙が溢れました。男と女がふたりで生きていくというのはこういうことなのかもしれない、このように生きることでしか男にとっての自分の価値を見いだせない女も多くいると実感します。もちろん二人だけの世界でこじんまりした幸福に包まれて生きていくこともできるのでしょうが、それもまた虚無感をもたらすだけでしょう。でも何と言っても「斉藤さん」が秀逸!学生時代、先輩に紹介された大先輩(紹介された時点ですでに何回生か不明)のことを懐かしく思い出しました。偉大な方として学内では崇拝されていたけど、今思えば社会で評価されたはずもなく・・・、大文字山の天狗になったと思えば心安らぎます。
祥伝社 1,470円