『新刊が出ると必ず読む』
宮本輝は新刊が出ると必ず読む作家の一人です。
「青が散る」「錦繍」「優駿」の頃のような、強烈な吸引力はここ10年の作品にはない。けれど最近の作品のゆっくりとした時間の流れに身をゆだねるという経験は、それはそれで心地好く、主人公の名前と職業と場所を変えただけだなあと思いながらも、分かっているものを確かめるように一作一作読んできました。
しかし、この作品は、この十年余りのゆっくりした時間の流れを感じるタイプの中で、ある到達点に達したのではないかと感じます。
発酵食品についてかなりのページを割き、詳細に書き込んでいますが、それが人の心や絆について重ね合わせずにはいられません。
ゆっくり時間をかけて壌成されたものこそが本物。
本物に出会いたいものです。物も人も。
中央公論新社 エ1,680円