『一気に読むことができなかった...』
私も宮本輝の大ファンで、これまではどの作品を読んでも、その度に
自分と宮本作品との相性を確認できました。万人にとって絶対的に
面白い本はないと思いますが、作家と読者との相性というのはあると
思うのです。私にとって宮本作品というのは、いつも読んでいる最中に
この本に出会えてよかった、面白いからどんどん進んでしまうが、
読み終わるのが残念でしかたないと思えるものだったのです。
でも、この作品だけは、上巻を読み終わってから下巻を手に取るまでに
間に他の本を読んでしまいました。
それでも最後まで読めたのはやはり宮本作品の力といえるかもしれません。
やはり、私もこの作品に確固たる軸が感じられないというのが大きかったです。
宮本作品の真骨頂は登場人物ひとりひとりが生きていて、活字を追っているだけでも、
自分の中で登場人物の顔や姿かたちが生き生きと浮かんでくるような人物描写の
素晴らしさだと思っています。
この作品では登場人物は多い割りに、それぞれの人物像が薄かったような気がします。
主人公が大勢の女の子を居候させる決心に到った心境なども読み取れませんでした。
そういえば月光の東を読んだときも、読んでいても軸がつかみきれず作品に
入り込めないまま作品の外に放り出されたような感じがありました。
でも宮本作品は最高だと思います。
ちなみに私が好きな作品は、流転の海シリーズ、青が散る、優駿、錦秋、草原の椅子、
道頓堀川、蛍川、幻の川、春の夢、五千回の生死などです。
光文社 エ680円