『短い中に、ミステリあり、人間ドラマありの珠玉の作品集』
宮部みゆきの短編集。短い中に、ミステリあり、人間ドラマありの珠玉の作品集に仕上がっており、作者の力量を思い知ることのできる作品である。
恋人にふられ吹っ切れないでいる女が、ある夫婦に犯罪を持ちかけられる「返事はいらない」。駅の伝言板のメッセージから始まるホンワカストーリー「ドルネシアへようこそ」。やっと見つけたぞ、と叫びながら近づいてくる車の事故から始まる悲しい物語「言わずにおいて」。少年が引っ越した家に浮かび上がる白い影と謎の盗聴器の真相は「聞こえていますか」。東京、という幻想にしがみつく女性たちの悲しさを描き出す「裏切らないで」。恋人とけんかした少年が借金の形に婚約指輪を取られた結婚を控えた従姉を救えるか「私はついていない」。
なかでも、「聞こえていますか」は「ブレイブ・ストーリー」の、「裏切らないで」は「火車」の原型ともいえる作品であり、他の作品も、宮部みゆきらしさあふれるものとなっている。特に人物描写が秀逸で、現実と紙一重の設定にリアリティを感じる。そして、短いながらも驚きもちゃんとあるミステリになっており、北村薫のような雰囲気。読みやすくおもしろい。
新潮社 エ540円