『星は甘めにしてみました』
この本、上下をセットで初版を買いました。
随分高かったし随分時間が経ちましたが最近になって引越を機会にやっと読みました。
途中、映画化を含め世間で「模倣犯ブーム」のようなものが流れていきましたが我関せずで本棚で熟成された本書は今まで手に取らなかった理由が腑に落ちました。
まず何よりハードカバーのデザインと内容が乖離しており読後に愛着が沸きません。
ストーリーは流石に宮部みゆきです。
これだけの大作を大した破綻も見せず纏めきる技量は現代日本のトップクラスと言えるでしょう。
しかしこれ程の長編でありながら登場人物への感情移入がこれ程むずかしい小説を私は始めてみました。
登場人物の多さ、置かれた立場の相違、美醜、色々な理由があるのでしょうが登場人物で自分勝手という印象を抱かない人物が殆ど居ないからではないかと感じました。
大量殺人事件、被害者遺族は自分達のこと、喪った家族のことばかりに心奪われ他に心が配れないのは分かる。しかしそういう人物やステロタイプな若者像が多く長編で数の多い登場人物を分かりしやすくしたことが裏目に出たと感じます。
本を多く読む方は大抵ある程度の感情移入を出来る人物の目安を付け、その人物目線で本の世界に入り込む方が老若男女を問わず多いと思います。
しかし私は本作で豆腐屋の爺さんと整理役の上役刑事以外感情移入できる人物は一人もいませんでした。
年齢を重ねたからこそ見えるモノ、自分の尺度をもって他人を計る。無闇に他人任せにしない。確固たる自分をもつ二人目線でこの本を読むと読後には圧倒的な疲労と虚しさしか残りません。
ピースがそば屋の娘に手を出した辺りから話は収束に向かうというより支離滅裂な破壊へ向かっていきます。
筆者はより残酷な展開の一つのピースと考えたのでしょうがこれもそば屋の娘へ感情移入できない大きな理由となりました。
世の中「イチローのファン」はたくさんいても「イチローのファンだからマリナーズのファン」という人は少ない筈です。
昔の「長嶋のファンだから巨人ファン」「野村のファンだから南海ファン」っていう人は少なくなりました。
時代の変化に伴う人々の心の変化を捉えた作品の筈が読者の心も変化していることを置き忘れた気がします。
ホントは星2?3と思いましたが長編へのご苦労とファンですので甘めにしました。
とはいえ宮辺みゆきさんの大ファンであることに代わりはありません。
彼女のもの悲しい短編が大好きです。
小学館 エ1,995円