『宮部みゆきの原型』
『パーフェクトブルー』をすっかり忘れているので、元警察犬マサと蓮見探偵事務所もさっぱり忘れていた。
なので単なる犬の一人称の短編集だったのだが、宮部みゆきには珍しくたどたどしい話の運びのような印象だ。10年ほど昔の作品が中心なので、やはり修練が足りない作品集と言うことか。もちろん、それでも十分読み応えはありますが。
ただ『マサ、留守番する』は書き下ろしと言うだけあって、ストーリーテリングの上手さは群を抜いている。テーマも少年犯罪・動物虐待・動物惨殺・家庭不和と今現実あるものだ。それもかなり胸が苦しくなるような現実で、示唆に富んでいる。宮部みゆきの作品はいつだって、説教臭くない程度に教えを含んでいる。この人の作品を読んだらグレないだろうって思うくらい、教育指定図書の匂いがするんだ。
だが、この短編集の中、最新作の書き下ろし作品で初めてそれを感じた。やはり作風ってのは作られて行くものなのね。
東京創元社 エ680円