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夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)
『青春の疾風怒濤時代を描いた童話』
作者は私の遥か後輩、そして本作に一切名前は出ていないが、私の母校が主要舞台のひとつになっている。今の総合人間学部は、私の頃はまだ「教養部」といった。校舎は今のように近代的に改築されてはおらず、古い鉄筋コンクリートのA号館、D号館、E号館が講義に使われていた（B号館とC号館がどこにあったのか、果たして存在したのか、私は知らない）。そして、これはどうやら改築後の話らしい。作者はまだ若いから、昔の教養部を知らないだろう。
出だしで私は作者の気負い過ぎを案じた。しかしその危惧はやがて夢消する。縦横無尽の言葉遊びが眩しい。そして虚実の境があやふやな、不思議で甘酸っぱい物語（藤枝静男「田紳有楽」を思い出す）。自意識に押し潰されてばかりいた昔。その曇った目には、ふわふわと自由にみえた同世代の少女たち。かなりトリッキーに描かれてはいるが、これは実は正統派の青春物語なのだ、と、中年も後半を迎えた私は思う。
なぜか最終章の運びがもうひとつである。作者が「のっていない」ように思われる。しかし私はこの小説が好きだ。暖かくて、懐かしい。もし30年前が舞台であったなら、私はこの作品の中で、模擬店のリンゴ飴か何かを持ちながら登場人物の大活躍を見物する、路傍の石のひとつであったかもしれないのである。
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