『ほんの些細な「悪意」のゆくえ』
ふとした日常、誰の心にも影を落とす小さな黒い塊のような悪意が、
ちょっとしたことで揺さぶられたり呼び覚まされたりしてしまう、そんな短編集。
「うつくしい娘」では、なんだか切なくて涙が出た。
昔は美しいと言われ、今も若いと言われ喜ぶ一人娘を持ち工場で働く母。
そんな彼女が悪感情を溜め込んだ美しくない娘との息苦しい生活の中で、
自分もまた娘への殺意に似た感情を膨らませてゆく。しかし最後には…。
「おやすみ、こわい夢を見ないように」
ふった元カレに執拗な嫌がらせをされ学校で孤立している女子高生が、
彼への復讐に燃え、ひきこもりの弟の協力を得て体を鍛えトレーニングをはじめる。
いざ元カレを前にしてふがいない態度を取ってしまった彼女が
その苛立ちの矛先を向けたのは意外にも……だった。
「私たちの逃亡」
周囲の人間への理由なき敵意を抱え込んだまま自分の世界に閉じこもってしまった
少女の行方を彼女に付き合いきれなくなって逃げ出した少女が記憶をたどりつつ
さがす物語。
角田さんの毒気を帯びた文章が、それぞれの主人公たちの暗い方向への
傾いてしまう心理をリアルに描いている。
新潮社 エ500円