『題名の重み』
飯嶋和一氏の著作が持つ魅力のひとつは、心の奥底にある拭いがたい人間の反抗心・独立心を呼び起こす点にあるのではなかろうか?
それはまるで休火山の地下深くに埋もれていたマグマに刺激が与えられるようなもの。巨大な組織、忌まわしい過去、強く根を張って頑強に立ちつくす社会環境に巻かれて、いつしか愚痴っぽくなっている自分に、ズルズルと後退してしまいそうな自分に、「本当にこのままでいいのか?」と問いかけてみたくなる。そんな印象を読了して抱くことが多い。
既に高く評価されている『始祖鳥記』『雷電本紀』は、それぞれ刺激的なエピソードが複数束になって構成され、多声楽のような魅力を持つものである。それに対し、この短編集は、よりストレートに魅力が表現されているものだと思う。しかも、彼の小説の本質はいささかも損なわれていないとも感じる。
無為な日々を重ね、深い闇夜のなか、崩れゆく足場に気持ちも揺らぎ、寄って立つ場所を手探りで探して彷徨しているうちに、彼の小説に遭遇した。その魅力にみせられた者として、読了して本を閉じたとき目に付いた「ふたたび故郷(「安息の場所」も意味するHome)へ帰れず」という題名、その重さに、息を呑んだ。
小学館 エ1,680円