『探偵ガリレオの改善』
昨年は東野圭吾の当たり年だった。トーハン調べによると2008年 年間ベストセラー 単行本・文芸部門で、トップ3を独占している。
東野氏は2005年度の直木賞を受賞してから一気にメジャーになったが、意外なことにテレビドラマで有名な「ガリレオ」は1998年の作品だ。
「ガリレオ」に代表されるように、彼の作品は理系的な題材がよく用いられ、スタイルもまるで論文を読んでいるかのような単純明快な文章である。
著者はこのように、コンテンツに理系の題材を用いていることで元理系作家として注目されることが多いが、彼の作品をいくつか読んでみると小説を書くというプロセスそのものにも理系のスタイルを持ち込んでいるような気がしていた。
そして、「たぶん最後の御挨拶」をみてそれを確信した。
この本では、自らの著作約60冊を振り返っている章があるのだが、そこで分かったのは以下のような著作スタイルである。
・失敗作を作り直している
・今までにないパターンを常に模索している
・一度成功したパターンを、角度を変えて別のネタに再利用している
・徹底的に読み手の立場に立って書いている
・環境の変化にすばやく対応
これは、まさにユーザー中心設計手法で、しかも典型的なカイゼンの手法ではないか。
とうとう小説の世界も人間中心設計とカイゼンの時代が来たのだ。
そういえば、東野氏がデビュー前に5年間務めた職場はトヨタの部品メーカー「デンソー」なのだから当然か。
文藝春秋 エ1,260円