『粒ぞろいの短編集』
日常生活の中で、誰の身にも起こりうる犯罪がこの短編集の共通したテーマとなっていたと思う。東野圭吾はよく小説の中で、人間の深層部分に潜む悪意を(グロテスクではなく)あくまで淡々と描く。そのある意味怖いもの見たさにも似た面白さと、(現実離れしてないだけに)却ってそのリアル感によって読む側を強烈にストーリーへ引き込んでいくコツのようなものを心得ているように感じる。その最たるものは「白夜行」「幻夜」あたりになるのだろうが、この作品でもその趣向は例外ではない。それが顕著に表れたのは灯台の話だが、読んでいてまるで昔の怪談のようなジワッと冷や汗が出るような恐怖感を味わった。そして最後の陰鬱な余韻を残した結末(オチ)といい短いストーリーの中に作者の持つ計り知れない力量を堪能できた。他の作品は若干軽いタッチの作品やハッピーエンドのものもあり、それぞれ毛色も異なるが謎解きの要素も含め、どれも構成のしっかりとした粒ぞろいの短編集だ。
光文社 エ500円