『ホワイダニット』
凄絶なトリックとか、そういうものを期待して読んではいけないと思います。メインにすえられる謎のトリックについては「どうにでもなる」と作中に言及されていますし、其処をさして「駄作」と切り捨てるのは、お門違いというか、なんというか。
いくつか続いているシリーズの二作目、らしいです。作中にも以前に何かしらの事件があったことは示唆されていますが、それほどの影響なく、単体として読むことが出来ます(自分もそうでした。第一、シリーズとして順番に読んでほしいならばタイトルにそれを反映させるでしょう)。体裁としてはミステリですが、読者に挑戦する類のものではありません。物語を鑑賞する、という感じに近いです。淡々と物語がすすんでいく。
歌舞伎を知らない自分がすんなり話に入り込めたのは説明の巧みさなのか、文量の少なさなのか。歌舞伎という舞台故の人間ドラマを短いスペースで書き上げた(ちょうど濃密な夏の風みたいな感じでしょうか)佳作、という印象です。
角川書店 エ円